大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)2288号 判決

被告人 染谷誠

〔抄 録〕

被告人染谷が川間農業協同組合の理事兼組合長として昭和二十七年十二月九日頃から同三十年八月三十一日頃までの間同組合事務所においてその事業地区外にして同組合の組合員にあらざる東京都墨田区吾嬬町西五丁目一番地に本店を置く大都工業株式会社(代表取締役小川耕一)に対して同会社の営業資金として前後七十回に亘り合計金一億二千二百五十三万四千三十円を貸付け、もつて同組合の事業の範囲外において貸付をした事実は原判決の挙示する標目の各証拠を綜合すれば優にこれを認めることができ事実誤認の疑は存しない。そして被告人染谷は右会社の営業資金として前記組合の資金を融通するにあたつてはその都度右会社振出前記組合宛の約束手形を徴しておつたものであり、また前記七十回に亘る貸付の内二十五回はいわゆる手形の書替であつて現実に現金の授受があつたものではなく、その書替手形の額面を合計すれば金五千六百万円に達することは原審第三回公判調書中証人横張利春の供述記載、同人の作成に係る昭和三十二年五月二十日附大都工業株式会社に対する貸付明細表と題する書面の記載により明らかである。ところで論旨は農業協同組合法第九十九条に「組合の事業の範囲外において貸付をし若しくは手形の割引をなし」とあるのは、現実に組合の金員を貸出すことを意味し、金銭の授受をともなわない単なる支払期日の延期若しくは消滅時効中断のためにする借用証書または手形の書替は同法にいうところの「貸付」というべからざるものと解するのが相当であるから、被告人染谷が前記組合の組合長として原判示期間内に大都工業株式会社に貸付けた金額は原審認定の一億二千二百五十三万四千三十円ではなく、これから支払期日の延期のための書替手形の額面合計五千六百万円を控除した六千六百五十三万四千三十円であり、その貸付回数も原審認定の七十回ではなく、これから書替手形を受け取つた回数の合計二十五回を引いた四十五回と認定すべきであると主張するのであるが、農業協同組合法第九十九条は組合の役員は如何なる名義をもつてするを問わず、組合の事業の範囲外において貸付をし、若しくは手形の割引をすることを禁じているのであるところ、原審第三回公判調書中証人横張利春の供述記載、同人の検察官に対する昭和三十一年十二月十五日附供述調書、佐久間義典の検察官に対する昭和三十一年十月二十三日附及び同年十二月十八日附各供述調書、当審証人横張利春同佐久間義典の各供述を総合すれば、被告人染谷は前記大都工業株式会社に対する従来の手形貸付金の支払期日を延期しいわゆる手形の書替をなす場合には常に受取つていた約束手形を右会社に現実に返還し新たに右会社から組合宛の約束手形を受取つていたことが認められるのであつて、すなわち新旧手形間の関係についていえば、両者は別個のものであり、新手形は旧手形をその原因関係として支払に代えて振出されたものというべく、その法律上の性質は代物弁済であつて、旧手形関係が消滅しその代りに新手形関係が成立したとみるのが当然であるから本件手形の書替の如く経済的には単に同一貸付金の支払期日を延期するに過ぎざるが如き行為もまた農業協同組合法第九十九条にいう「貸付」と解するのが相当である。

(加納 山岸 鈴木重)

注 量刑不当によつて破棄

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